Text Bookのプランは、1995年に制作された同名タイトルのシルクスクリーン作品《Text Book》に遡る。この作品は一見すると60色の円形の色面が刷られた一枚のシートだが、各色面を囲む「切り取り線」が印刷されており、これに沿って切り離し、60ページの「教科書」へと製本するためのものであった。なお、2018年には当時この作品の制作を担当したノマルエディションに依頼し、製本化された状態の試作品が完成している。 ページ数を増やしサイズを大きくして製本された状態のText Bookは、同時期に着想していたむしろ本来の完成形であり、その後継続していつか実現したいと考えていたが、今回ノマルエディションとの共同制作の機会を得て具体化するに至った。 作者は当時、活動の「別なかたち」を探る中での一つの可能性としてEducational Method（教育的方法）に関心を抱くようになり、様々試行していた。同様の指向から制作されたものとしては、《Half Piece of Symmetry -1~5》（1995）、また、岡山市立御野小学校において夏休みを利用して実施されたワークショップ《Night Art》（1995）などがある。これらに共通するコンセプトは、各々が生来内包し潜在させている様々な能力や資質の萌芽・育成へとつながる、内なる力を密かに刺激し喚起する「教材」を提供する試みにあった。
色彩の選択と配列について Text Bookの各ページには、円形色面が同じサイズ同じ位置にひとつずつ配されており、円形色面の色彩はページごとに異なる。色彩の選択とその配列は、機械的に生成された乱数や何らかの外部参照によるものではなく、作者の恣意によって判断し決定されている。具体的には、まず1ページ目の色彩を決定し、これを踏まえて次ページの色彩を選択する。この手順を連鎖的に繰り返して重複のない150色の選択と配列を決定した。これを一冊の本とすることによって、（非連続性を含む）連続性が内在される。 閲覧者は、それぞれの任意のスピードで、また、長く眺めているページやさっと眺め終えるページなどページごとの閲覧時間も任意に変化させながら、ゆっくりとコマ送りされていくかのような形態の「授業」を体験する。 各ページの色彩が喚起する様々な心的な変化、規則性が明示されない色彩の羅列に潜在する周回性や推移性から刺激を受け、あるいは、あらかじめ想定していたわけではないリズムやシークエンスがそこに発生していることを感受するかもしれない。また、作者の恣意によって生まれた色彩の選択や配列といういわば「他者によって綴られたもの」と接し、嗜好性の同調や違和を抱くかもしれない。
